report いなぎの子

おとうさんの仕事

1964年11月25日 東京・南多摩・稲城二小・六年 石川良一

ぼくの父は、昭和31年に、第2級整備士の免許をとった。
 現在は立川にある基地につとめている。
「良一、きょう、オートバイなおし手伝ってくれるか。」
「どうしようかなあ。あしたようがなかったら手伝うよ。」
そして、その日がきた。朝日がまどをてらしている。きょうは日本晴れだ。
「ああ」と、ぼくはあくびをした。父が、
「きょうやるか。」といった。
「うん。」
 食事をし、身じたくをして外に出た。父が、
「あそこにある道具箱もってこい。」と、道具箱のほうをゆびさした。ぼくは急いでとりに行った。中にはドライバー、ねじまわしなどいろいろ入っていた。ぼくは、それを外にかつぎ出した。あまりの重さにおどろいた。そして、オートバイのふちにおいた。父はもう、ねじをはずしていた。ぼくは、それをにらむように見た。父が
「むこうから、きれをもってきてくれ。」といった。
 ぼくは急いでとりにいった。ぼくがなぜこの仕事を手伝うのかというと、オートバイの中のエンジンなどがどのようになっているのかを、実さいに見るためである。
 きれをとってきた。父がさいごのねじをとりはずしたとたん、オイルがチョコレートのとけたようように流れ出してきた。父が顔をしかめて
「こいつあいけねえ、良一、こいつをもっていろ。」といった。ぼくは急いでもった。父はトタンのはこようなものを持ってきて、オイルを流しこんだ。ねじが1つオイルの中におっこってしまった。ぼくは手をつっこんでとった。
 やっと、オイルが流れなくなった。そして半かたをはずした。こまのようなものがいろいろあった。
「良一、ここのねじはずしといて。」といって、ぼくにねじまわしをわたした。
父は家の中へはいっていった。ぼくは、ねじの大きさに、ねじまわしを調せつした。すこしさびついているようだったが、1つめははずれた。2つめにとりかかった。ねじの大きさにはめ、力いっぱいうごかした。ねじまわしだけがすべってしまった。キィキキーといった。ぼくは歯をくいしばって、ねじまわしをまわした。びくともしない。
「よいしょ。」と、かけごえをかけてやった。ぐぐっと、すこしうごいた。もういちど、「よいしょ」といってやった。ぐぐぐーキリキリといってうごいた。ひたいのあたりにあせがながれた。3っめのねじもねじまわしを調せつした。そして、ねじまわしをまわした。キリキリといい、安外らくにはずせた。これでおわりだと思ったら、急に気がぬけたようになった。
 父がもどってきた。おおきなねじまわしをもっていた。父はそれで、歯車のかみあっているところをはずした。ぼくは注意深く見守った。歯のひとつがそうとう減っていた。父は、原因がわかったらしく、ほっとしたような表情をした。オートバイのそばに、ねじやそのほかのものがさまざま置いてあった。
「良一、たなの上に、これと同じものがあるから、もってこい。」
「うん。」ぼくは急いでとりにいった。心の中で、このオートバイがなおるのをたのしみにしていた。歯車をとって、父にわたした。
「とうちゃん、こんなにはずしちゃって平気かよ。」と、ぼくがきくと、
「二級免許をもっているんだ。このくらいのことができなくて、たまるか。」といい、わらった。
「だけどよ、ねじひとつまちがえただけで、はしらなくなることだってあるだろ。」
「うん、ちょっとはめるぐらいのねじなら平気だよ。」
父の仕事ぶりを見て、はじめて父の才能をしった。
「さあ、もう12時だ。めしにしようか。」
「うん。」
 父とぼくは家の中にはいってごはんをたべた。仕事をしてから食べるごはんは、とくべつうまい。
 食事がおわって、たたみの上にねころんだ。姉さんたちはテレビを見ている。
1時間ばかり休んでから、午後のしごとにはいった。
「あと、このねじをはずして組み立てだ、がんばれよ。」と、父がいった。さいごの、ねじはずしにとりかかった。そうとう、くさっているねじだ。父は顔をしかめて、ねじまわしをまわした。キキーといったが、びくともしない。父は、できるだけの力をふりしぼったらしく顔が赤くなってきた。やっと、ひとつはずれた。ねじはぽろぽろになっていた。ねじはあと3つだ。2つめにとりかかったが、全ぜん動かない。父が、
「良一もいっしょにやれ。」といった。そして、あせをふいた。
「さあいくぞ。」といい、
「いち、にいの、さん。」ぼくは、ちからいっぱいひっぱった。少し動いた。ねじが1つこわれそうになっていた。
「もう1どいくぞ。」
「いち、にいの、さん。」といい、ねじまわしをおもいっきりうごかした。ギリギリと動いた。ふたつめがやっととれた。
 すぐ、3つめにとりかかった。ふたりで、ぐいっとねじまわしを動かした。。ぜんぜん動かない。父が、
「良一、とんかちと、のみをもってこい。」といった。ぼくは、それをとってきてねじのところに、のみをひっかけて、とんかちでうった。ギリギリといって、あんがいかるくはずれた。さいごの1つも、その手ではずれた。あとは組み立てるだけだ。父が、
「そこのでかいドライバーとってくれ。」といった。ぼくはとった。
 父は、ねじをだんだんとはめていった。やがて、3時になった。母がお茶をもってきた。ぼくと父は手を洗いに井戸にいった。おかしをたべてゆっくりと休んだ。
「もうひといきだ。」と、父がいった。また、仕事にとりかかった。エンジンのもう1つをはめる作業だ。
「良一、のりもってこい。」といった。
「なにすんの。」
「ここをはめるんだよ。」と、父は、皮のところを指した。のりをもってきて、皮にのりをはった。そして、もう1方のエンジンをはめた。なかなかはまならい。はまったかと思うと、皮がはがれてしまう。こんどは、ぼくが皮をもって、父がエンジンをはめることにした。ぼくの手は、オイルだらけで、びしゃびしゃだ。その手で皮をもった。やっとはまった。成功だ。父がねじをはめた。ぼくもドライバーをてにとって手伝った。ねじはめは終わった。
 こんどはマフラーはめにかかった。この仕事も、あんがいき用でないとできない。ぼくがマフラーをもって、父がねじをはめた。父はねころんで下からねじをまわした。その父の顔を見ると、ぼくが代わりにやってやりたいような気がした。父の顔は、すすで黒くよごれていた。やっと、はめおわった。父が
「あと、カバーをはめるだけだ。」といった。ぼくは急に気がぬけたようだった。
「良一、あそこからカバーをもってこい。」
「うん。」
ぼくはすっとんでとりにいった。重いのも忘れてもってきた。
「よっこいしょ。」と、カバーを下におろした。
「良一は、あっちをもっていろ。」といって、父はカバーをはめた。
ひとつひとつねじを、ちゃんとはめた。
「さて、あとオイルを入れるだけだ。」
 ぼくは父にいわれる前から自分でオイルをもってきた。父は、かんぬきでかんをあけ、オイルを、ドクドクといれた。
「さて、でき上りだ。」
 ぼくは何ともいえない気持ちになった。さて、問題はこれからだ。オートバイが走るかどうかが問題だ。心ぞううつ速さがだんだん早くなってきた。父が、
「さあ、いくぞ。」といって、よいしょと思いっきり動かした。父の顔には、あせがうちみだれていた。
ブブブブーー。
ついにかかった。父はうれしそうな顔をして道路の方へとオートバイを走らせていった。

★良一君、今まで気がつかなかったおとうさんのネウチを発見したんだな。おとうさんを見る目が、今までよりもいっそう深くなってきたことだ。それは、良一君がホンキになって、いっしょにしごとしたからだ。ただ、ぼんやりとみていただけでは、おとうさんについての新しい発見がなかっただろうな。
★そのときの情景がよく表現されているところはどこか。良一君は、なにを新しくつかんだのだろうか。